「逃げ水」
「逃げ水」で、春。路上などで、遠くにあるように見える水に近づくと、また遠ざかって見える現象。一説に、武蔵野名物という。友人知己の葬儀での場面か、偶然に道で出会った霊柩車か、それは問わない。「逃げ水」の上に、ぼおっと浮いたように霊柩車が揺れて去っていく。そこをつかまえて「浮き世とや」と仕留めたところには諧謔味もあるが、人間のはかなさをも照らし出していて、淋しくもある。霊柩車はむろん現世のものだが、こうして見ると彼岸のもののようにも見える。まさにいま、この世が浮いているように。死んでもなお、しばらくは「浮き世」離れできないのが人間というものか。句集の後書きを読んだら、きっぱりと「最後の句集」だと書いてあった。また「『美しく、正しく、面白く』が私の作句のモットーなのである」とも……。宝塚歌劇のモットーである「清く、正しく、美しく」(天津乙女に同名の著書がある)みたいだが、揚句はモットーどおりに、見事に成立している。この句自体の姿が、実に「美しく、正しく、面白」い。いちばん美しく面白いのは、句の中身が「正しい」ところにある
update:2009年09月09日
